平成31年2月

学年末を迎えて今年度の教育研究で印象深かったことを振り返ってみたいと思います。本学は「国際性の涵養」、「地域性の重視」、「人間性の涵養」を基本理念としていますが、今回は国際性の涵養という観点から教育研究活動の一端を御紹介したいと思います。

昨年春に始まった米中貿易戦争は長期化し、世界経済に大きな打撃を与えています。期限が迫りつつある英国のEU離脱を巡り、交渉は紛糾し、大きな国際問題になっています。日本にとっても日韓関係、日露関係、北朝鮮問題など差し迫った難しい課題に直面しています。このように国家間の政治的経済的課題の解決が厳しい状況になればなるほど、学術や教育を通じた相互交流と相互理解を深めることが不可欠であり、重要であるように思えます。本学の学生・教職員は以前にも増して国際社会への関心を高めて教育研究に取り組んで来ています。

学期末の休業期間を活用して学生達は国際的視野を広め、国際感覚を養うために海外研修に出かけます。研修先である北米、露中韓の諸大学に加えて、昨年度からインドネシア・ボゴール農科大学との学術交流の下で健康栄養・幼児教育に関する現地実習が始まりました。また今年度に横浜市立大学と締結した学術交流協定の下に国立フィリピン大学で開催された研修にも学生達が参加しました。帰国後に開催された研修報告会で学生達の取組が紹介されましたが、目を見張るものがあります。

本学が中心となって学術面での国際交流も活発に行われました。秋には、昨年度に引き続きオーストラリア政府・豪日基金が支援をして下さり、国際シンポジウムを開催しました。アメリカ、オーストラリア、日本などのアジア太平洋地域の各国がどのように「インドパシフィック」に関わるかをテーマとして安全保障に関する海外の研究者・政府関係者を迎え、研究報告が交わされました。また、経済学の分野では年末に、グローバル経済下での東アジアの貿易とイノベーションをテーマに海外研究者を迎えた国際ワークショップを開催しました。国際経済に関するワークショップはこれまでも活発に開催していますが、今回は韓国、モンゴル、中国から研究者が来学したことが特徴です。また、ERINA(環日本海経済研究所)の研究員の方々にも参加頂きました。大学院生にとっては良い刺激になったと思います。

朝鮮半島を巡る国際的課題に関しては特別の取組みをしました。例年、サイバー韓国外国語大学校と本学とは共同で韓国語研修を開催しており、この2月も韓国から多くの研究者をお迎えし研修が行われました。たくさんの学生や市民が参加しましたが、こうしたことに加えて今年度は、北朝鮮情勢と拉致問題に関して学部学生達が特に積極的な取組をしました。拉致問題への理解を広めるために政府・新潟県から本学へ取組の依頼があったことが発端ですが、昨年の夏以降、学生達は指導教員からアドヴァイスを得つつ、拉致問題の悲惨な実態や困難を極める拉致問題の背景にある複雑な課題を深く理解するために多くのことを経験しました。夏休み前の事前学習からスタートし、秋には蓮池薫さんを大学に講師としてお招きし、また、曽我ひとみさんを佐渡にお訪ねし、それぞれの方から詳細な話を直接伺う機会を得ました。拉致されたとされる現場にも足を運びました。その間、朝鮮半島情勢の現状、日本の役割に関して幅広い知識を得るために、外務省北東アジア第二課から現役外交官を大学にお招きして日本が直面する朝鮮半島を巡る政治的課題に関する講演を頂く機会も設けました。多くの方々の力添えの下に拉致問題に正面から取り組み、学んだことは、困難な国際問題にどのように向き合うべきかを一人一人が深く考える上でまたとない機会になったのではないかと思います。こうした学生達の取組と成長する姿は2月17日NHKテレビ「おはよう日本」で全国に放送されました。御覧になった方もいるかも知れません。

国際政治経済情勢が激動する中で、学術研究における国際交流の必要性、国際性を涵養する教育の重要性がこれまで以上に高まっていることを痛感いたします。

2019年2月
新潟県立大学学長 若杉隆平