令和元年度(平成31年度)

平成31年度入学式式辞

新潟県立大学に入学された264名の皆さん、入学おめでとうございます。本学の役員・教職員一同を代表いたしまして、新入生の皆さん、そして皆さんを支えてこられました御家族や関係者の皆様に心よりお祝い申し上げます。高井新潟県副知事をはじめ御来賓の皆様には、御多忙の中にもかかわらずご列席を賜り、厚くお礼申し上げます。

厳しい受験勉強を克服して入学された皆さんは、これからの大学生活に対して大きな期待をもって本日を迎えていることと思います。そうした皆さんをお迎えし、これから新潟県立大学の仲間として共に活動できることを大変嬉しく思っています。

新潟県立大学は、56年前に設立された県立新潟女子短期大学を母体として平成21年に開学し、今年でちょうど10周年を迎えます。「国際性の涵養」「地域性の重視」「人間性の涵養」を教育理念に掲げ、教育研究に多くの成果を上げ、優れた卒業生を社会に送り出してきました。間もなく令和の時代が始まります。その第一期生となる皆さんをお迎えする本学では、教育研究をさらに充実するための計画が着々と進んでいます。皆さんが充実した大学生活を送ることが出来るように大学を挙げて取り組みたいと思っています。

国際地域学部に入学された諸君は、英語・露中韓言語による国際コミュニケーション力を高め、国際的視野と深い教養、多様な文化の理解力、地域社会の課題へ取り組む力を身につけるための教育を受けることになります。国際交流を深めるには、異なる歴史、文化、社会、言語を理解する語学力とコミュニケーション力が不可欠です。新潟は日本海を挟んでロシア、中国、韓国をはじめとする東アジアと直接向き合っています。この地にある本学には東アジアを中心とする国際関係に関して多くの学術の蓄積が有ります。英語はもちろんのこと、ロシア語、中国語、韓国語を皆さんが修得する上において、他に誇る教育プログラムを用意しています。基礎力が身についたら、さらなる語学力を鍛えるために、実際に海外において学ぶ機会にも挑戦して下さい。

人間生活学部では、保育・幼稚園児教育人材、社会福祉人材、また、管理栄養士をはじめとする食のスペシャリストとして、高い専門性と実践性を磨くための周到な教育プログラムが用意されています。こうした専門領域においても国際性を磨くことが重要です。皆さんの先輩には海外での学習経験を積んでいる学生も少なくありません。国際的にも活躍できるスペシャリストを目指してほしいと思います。

これから皆さんが学ぶ大学は、専門知識を習得することだけを目的とした場ではありません。深い教養を備えた上で専門分野における知力を養う場です。ローマの哲学者・キケロは教養の大切さについて、「紫に染め込もうとする人が、その前に、ある種の薬剤に羊毛を浸すように、精神も、書物と自由な学芸によってあらかじめ陶冶され、知恵を受け入れる手ほどきと準備がなされるのが望ましい」と指摘します。これから本格的に学問に取り組む皆さんに対する良い方向付けを示唆するものと思います。

また19世紀の思想家ジョン・スチュアート・ミルは「大学での教育における重要な部分は、知的訓練を積むことによって、物事の原理を追求し把握しようとする思考習慣を修得することにある」と述べています。このことは今日の大学教育にも当てはまるように思います。深い教養の基礎の下に実利性や専門性に関する知識を得れば、皆さんが習得する知識は体系化されてゆくでしょう。皆さんが大学で学ぶ最も重要なことは、自らの力で直面する事実を認識し、真の事実であるかを検証する知的営みを身につけることではないかと思います。そうした知的習慣を身につけるならば、皆さんの長い人生は豊かなものとなるでしょう。大学がそのための良き鍛錬の場となることを期待します

大学生活のスタートは、皆さんが自らの履修プログラムを構築することから始まります。今日からは、これまで受け身であった学びの姿勢から、自らの課題を意識した積極的な学びの姿勢に転じてほしいと思います。そうした皆さんに対して本学の教職員は惜しみないサポートをいたします。

大学生活は健康で豊かな人間性を育む機会でもあります。キャンパスには、新潟県はもちろん、全国各地から学生が集います。海外からの留学生も学びます。人文社会科学を学ぶ友人、人間生活にかかわる専門分野を学ぶ友人など、多様な友人とふれ合うことになるでしょう。「自分と異なる人間と接することの価値、なじみのない思想や行動様式に出会うことの価値は、どんなに高く評価してもし過ぎることはない」と言われます。大学生活を通じて、異なる考え方を持つ友人達と知り合い、お互いの違いを理解し合える人間関係を構築して下さい。

そして、皆さんには何よりも健康であってほしいと思います。健康に留意しながら、お互いを尊重し、協力しながら社会を支えてゆく豊かな人間性を育んでほしいと思います。

皆さんが本学での学びを通じて知力と人間力を蓄え、人生を豊かに生きるための基礎を作り上げることを期待しております。

ご入学、誠におめでとうございます。

 

平成31年4月8日

新潟県立大学長 若杉隆平

 

令和元年度卒業式・修了式学長告辞

 本日、新潟県立大学を卒業される学士294名・修士1名の皆さん、卒業、修了おめでとうございます。
 本日の佳き日を迎えるにあたり、皆さん、ご家族の方々、ご来賓、そして教職員が一堂に会し、皆さんの新たな門出を祝福することにしておりましたが、拡がりつつある新型コロナウィルス感染症から身を守り、さらなる感染拡大を防ぐためにあらゆる手を尽くすことが必要となり、予定を変更する事態となりました。そうした中でありますが、学位記の授与は、皆様の長きにわたる学業の努力を締めくくるものであり、一人一人にとってはもちろん、大学にとってもかけがえのないものであるとの思いから、規模を縮小した上で式典は執り行うことにいたしました。晴れの場を期待していた皆様には残念な気持ちがお在りのことと察しますが、学位授与式こそが卒業式・修了式の原点であることを改めて思い起こしてほしいと思います。

 皆さんが卒業の日を晴れて迎えることができたのは、もちろん皆さん自身の研鑽によるものですが、この日に至るまでの長い年月にわたり、皆さんの成長を支えてこられたご家族の方々の御支援はなくてはならないものであったと思います。ご家族の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。また、学生への支援をはじめ本学の教育研究にお力添えを下さいます関係者の皆様に心よりお礼を申し上げます。

 目に見えず、確かな治療法が見つからない新型ウィルスの感染拡大に、皆様は今、大きな緊張と不安を感じていると思います。しかし、長い過去を顧みると、人類は飢餓、戦争、そして疫病という宿命とも言える苦難に幾度となく晒されてきました。そして、その都度何とか克服し、今日まで生存してきた歴史のあることを忘れてはなりません。その過程で拠り所とされてきたのは、先人から譲り受け弛まぬ進歩を遂げてきた科学の知力と差別・偏見を排してお互いを思いやる人間性であると思います。皆さんは、入学から今日の日を迎えるまでの学業の過程において、素晴らしい師との出会い、多くの友人との触れ合いがあったと思います。皆さんの知性と人間性は確かなものへと養われてきたと思います。現在、感染の拡大するコロナウィルスは、社会に不安と混乱をもたらし、人々から冷静さを奪い取ろうとするかも知れません。そのようなときこそ、皆さんがこれまで学びとってきた知性と共助の精神が生かされる時です。

 グローバル化という言葉が使われ始めて40年以上にもなります。皆さんは、自身の海外での学習経験や本学に海外から留学してきた友人達との触れ合いを通して、グローバル化の深まりを感じ取ってきたことと思います。100年前のスペイン風邪の世界への感染、20年ほど前のSARSの感染に比べて、目の当たりにする新型コロナウィルスの世界的感染の程度は比べようもなく急速なものです。また、世界に繋がる人々の活動や経済活動が被る影響は比べようもなく大きく深いものとなっています。こうしたことを通じて、我々は間違いなく一つの地球上で、ボーダーレスの社会にいることを実感します。ウィルスの拡散を防止するためにやむなく人々の移動に壁が設けられ、一時的に移動が制限されることがあるかも知れません。しかし、感染が収束すれば再びグローバル化が進展することは間違いありません。国際性を重視する本学において皆さんが培ってきたグローバル社会における人々の繋がりを大切に思う気持ちは、絶やすことなく維持してほしいと思います。

 本学での学業を通じて、皆さんは、社会を支える一員として役割を担う上で必要な専門性を学んできました。国際社会や地域社会を見通す洞察力、異文化を理解する言語力、子どもの教育や食と栄養に関する専門力など分野は異なりますが、本学において学んだことは、皆さん一人一人にとって専門知識を体系化する上での基礎となっているはずです。皆さんが大学教育によって得たものは、具体的課題に即した専門的技能の修得というよりも、事実をどのように捉え、真実であるか否かをどのように見極め、その結果をどのように表現し、伝達するかを思考する力であり、考える習慣であると思います。皆さんにはそうした力を基礎とし、これから活躍する社会において実践的専門力を研き続けていただくことを望みます。そして、国際社会あるいは地域社会を支える役割を担っていただくことを期待します。

 本日ここに臨まれた皆さんは、今日の式典が異例のものであったことを深くそして長く記憶に留めることになるでしょう。19世紀の偉大な経済学者であるAlfred Marshallは”Cool heads but warm hearts”という言葉を述べています。社会を捉えるとき、冷静な頭脳だけでなく、他者への思いやりの心を併せ持つことが大切であることを説いた言葉です。皆さんが普段の社会活動や経済活動を営むときはもとよりですが、現在のように社会が大きな災いと苦難に直面するときこそ、皆さんには、理性ある知力と温かい共助の心をもって苦難に取り組み、乗り越えてゆくことを望みます。

 皆さんのこれからの長い人生が豊かなものとなりますことを、そして、新潟県立大学の卒業生としての誇りを持つ先輩、同僚、後輩との良き出会いが数多く生まれることを願っております。
 本日は誠におめでとうございます。

 

令和2年3月19日

新潟県立大学 学長 若杉隆平