平成29年2月

平成29年2月

雪を被った小枝の先には春に向けて蕾の準備が始まっています。今冬の日本列島は例年に比べて寒く、日本海側だけでなく西日本の各地も大雪です。本学のある新潟も例外ではありません。普段の年はそれほど雪が積らない大学キャンパスですが、今年はいつもと違っています。しかし、桜の枝はそんな寒さをものともせずに満開の花を咲かすための準備を着々と整えています。春に備える本学の学生にも通ずるところがあるように感じます。

この時期は、今春、学窓を巣立つ4年生の卒業研究が披露される時期です。例年通り1月末までに公開での卒業研究発表会が開催されました。ほとんどの学生は卒業後の進路を決めており、4年間の学業の総決算を報告する一人一人の姿には緊張の中にも誇りと幾分の余裕が窺えます。近年見られる特徴は、卒業研究の内容が充実しつつあることに加えて、英語による研究発表をする学生が増加していることです。報告を見届ける教員にとっては教育に携わることで得られる手応えを感ずる時期でもあります。

本学では、専門的知識や能力を高めるとともに広い国際性を養うことを教育目標に掲げています。大学内での教育に加え、海外への留学・派遣・研修などにも積極的に取り組んでいます。昨年は教育研究の国際交流でいくつかの進展がありました。学部学生が外務省「かけはしプロジェクト」に参加し、米国で貴重な体験をし、優れたパフォーマンスを示して帰国しました。学生一人一人にとって得がたい財産になったように思います。国際性を育む教育として新たな芽が生まれました。

研究面での国際的展開も進みました。インドネシアのボゴール農科大学との間では、これまで積み重ねてきた健康栄養に関する学術交流に加えて、子ども教育における学術交流の芽が生まれました。ロシアのハバロフスク大学との間ではロシア語教育に関する共同研究が進んでいます。また、オーストラリア政府の支援を得てオーストラリア国立大学をはじめとするオーストラリアの大学における研究者との間で国際安全保障に関する研究者交流がスタートしました。また、国際経済学を専門とする東アジア諸国の研究者を迎えて国際ワークショップを開催し、学術交流を進めました。本学の規模は大きくありませんが、国際的な教育研究活動に教員・スタッフは積極的に取り組んでいます。

世代を超える教育に県立大学としてどのように取り組むことができるかが課題となっています。所定の学業を一旦終えた人が再び学び直すリカレント教育は代表例です。今日の社会は大きく変革しています。変化の激しい現代社会に生きる人々にとって、長い人生の中で1度や2度、大きな転機が訪れることは珍しくはないと思います。そうした転機に差しかかり、新しい取り組みを始めなければならない時に重要となるのが教育です。企業や組織内におけるオン・ザ・ジョブ・トレーニングによって育まれたスキルは重要ですが、その企業や組織を一旦離れると、それだけでは十分でないことも確かです。リカレント教育には、そうしたことを補い、変化の時代を生き抜いてゆく上での新たな叡智や技の基礎を提供する役割が期待されています。ダーウィンの進化論や恐竜の例を持ち出すまでもなく、変化に生き残るのは今が強いことではなく、変化に強いことです。

リカレント教育には、教養を深めるだけでなく、深い専門知識と思考力を養うことによって、実社会で通用し得るだけの変化への適応力を育むことが期待されていると考えます。こうした教育に新潟県立大学としてどのように応えてゆくべきかを考えるために、昨年秋から社会人向けの公開講座やリカレント教育講座を実験的に始めました。この取り組みは大学だけの力では十分ではなく、社会との連携が不可欠です。21世紀文化学術財団、新潟経済同友会、産業や企業の方々、新潟県をはじめとする関連機関の多くの方々からのサポートを得て進めています。講座に参加される社会人の方々が熱心に受講するのを拝見し、ニーズの高さを感じます。

新潟県におけるリカレント教育を進めるには、未解決の課題があり、さらなる研究の蓄積が必要のように思えます。社会人の求めるニーズがどのようなものであり、どのような教育を提供すべきであるか、また、そのための支援として何が必要か等を一つ一つ解き明かすために、教員スタッフによる試行が始まっています。

2018年2月
新潟県立大学学長 若杉隆平