「学問には、世を改め、人を救う力がある」
⼩池 由佳 教授
人間生活学部 子ども学科
専門分野: 子ども家庭福祉、社会的養育
担当科目: 子ども家庭福祉、社会的養護、子育て支援論、子ども家庭支援論
「ずっと助けてって言ってたよ」 私が出会った10代後半の子どもから 言われたひとことです。
この子は、家庭で親から多くの制限を受けていました。その制限に耐えかねて、家を飛び出し、支援団体と出会いました。冒頭の言葉は、私がこの子からこれまでの家庭での生活を聞いたとき、その子に向けて「まわりの大人に助けてって言っていいんだよ」と伝えたことへの答えでした。
なぜこの子の声を拾うことができなかったのか。調べると、支援者も支援団体も、それぞれの立場で支援を行っていました。ただ、今の制度や仕組みのなかで、十分にその役割を果たすことができない状況にありました。この子の親も、適切な方法ではありませんが、この子を守るための選択としての制限でした。適切な方法がわかり、そのように行う環境があれば、よりよい方法でこの子を守ることができました。
私の研究は、このような状況にある子どもや親、そして家族を守るための仕組みを対象としています。社会的養育といいます。子どもへの虐待や貧困の課題は、親や家族、支援者に原因の矛先が向けられがちです。 虐待や貧困等から脱することのできる制度や仕組みを明らかにすることを通じて、子どもが安全で安心できる環境で育つことができ、支援者や支援団体がその力を発揮できる。そのような制度や仕組みを考える。それが私の研究、社会的養育が成立するための制度構築となります。
今、取り組んでいるのは、「社会的養育における市町村の役割」です。これまで虐待対応は児童相談所等、都道府県が中心となって行ってきました。それが児童福祉法改正を通じて、市町村も担うこととなりました。 新潟県内30市町村をみても、人口規模や子ども数、社会資源のあり方も違っています。社会的養育の観点から、個々の強みを活かした仕組みづくりを研究しています。
私の恩師、秋山智久先生はその著書のなかで、「社会福祉実践は、価値によって方向づけられ、政策によって基盤を与えられ、方法・技術によって具体化される」と語られています。社会的養育も社会福祉実践のひとつで す。どのような価値に寄って立つのか、国、都道府県、市町村はどのような政策で基盤をつくるのか、方法・技術としてどのような事業に取り組むのか。そして、それらの成果が、いかに子どもの権利を守り、親や家庭の養育力を守ることにつながっているのか。「学問には、世を改め、人を救う力がある」(秋山、 2000)を糧に研究を深めつつある日々です。
出典:秋山智久(2000) 『社会福祉実践論[方法原理・専門職・価値観]』ミネルヴァ書房