ブックタイトル平成28年度公開講座記録集

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平成28年度公開講座記録集

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平成28年度公開講座記録集

第1回 映画『風の波紋』に鼓動する新しい「結」の魅力を語り合う農業をやりたいという青年は、そういう大きな農業法人の賃労働者として始めるケースが多いようです。しかし、農業の基本は、やっぱり愛しい大地を自分の手で何年もかかって知っていくということであって、単なる機械的な労働とは違うと思います。また、こういう大手は非効率的な手間のかかる里山には手を出さないでしょう。うちの義理の父も、農業を、米作りを長いことやりましたけども、亡くなる前に「親父さん、米作りはどうだったね」と聞いたら、「そうだよな。俺は40回しかコメを作ることができなかった」と言いました。つまり、40年間です。私の友人たちを見ても、今年はあそこの田んぼはこうだったから、来年はこう直そう、今年はこうだったから、来年ああしてみようと考えながら農業をやっています。去年は風でやられたから、今年はやられないようにこうしよう、と。そんなふうに毎年、試行錯誤していたら、あっという間に40年がたつのだろうと思います。しかし、農業とはそういうものではないでしょうか。しかし、政府は、農業を成長産業にしようなどというバカなことを言っています。九州のある農民作家は、「何を言っているんだ。農業というのは、去年と同じようにできることが素晴らしいのだ」ということを言っています。私も各地を見て思うのですが、1 億2000万の人間を食べさせるだけのお米を、この狭い国土で、それも数カ月で、作れる国がどこにあるでしょうか。政府は、その米を手放そうとしているわけです。日本は今後、水、コメ、食料、そういうものを求めて軍隊を出していくのではないか、そういうことさえ考えてしまいます。福本:小林監督、ありがとうございました。フロアに議論を開く前に、いままでのやり取りを聞きながら、私自身が感じたことを少しだけ話させてもらいたいと思います。私は四国の香川県生まれで、若いときはすごく都会に憧れて、東京で暮らしたこともあります。今は新潟で就職して生活しているわけですけれど、振り返ってみると、すごく都会に憧れていた自分がいました。しかし、今の自分はどうかというと、少し変わってきたように思います。この映画の最後のほうには子どもたちが出てきます。とても大事なシーンだと思うのですが、今の私にとっても「子ども」という視点はとても大事です。どういう場所で子どもを育てたいか、あるいは、どのような場所を未来の世代に残したいか。この作品は、心の奥に届く映像と音楽のなかで、そういう重要な問いを私に残してくれたような気がします。3 人の学生の皆さんの感想・質問も、たいへん刺激的でした。確かに、お金のことは気になります。私を含め、若い世代の多くは、お金がないと生きていけない世界しか知りません。都会で住んでいると特にそうだと思います。食べ物でも、着る物でも、すべてお金で交換します。でも、この映画を見ると、人間の世界はそれだけではないということがわかります。この映画は、世界は本来もっと豊かだったのだということを私たちに思い出させてくれると思います。また、学生の皆さんは、「心が癒された」、「人が生き生きしていた」という感想も語ってくれていて、皆さんもこの映画が描く世界の魅力を感じ取っているのだなと思いました。僕自身は、地震で傾いた家を直すシーンが、とても象徴的だと思いました。小林監督のお話にも「3.11」のエピソードがありましたが、私たちが生きている社会も実は崩れかかっているのだと思います。したがって、本当は、どこから、どんなふうにして、やり直せばいいのかが大きな問題になるはずなのですが、そこにうまく向き合えていない。しかし、この映画は、その出直しの場所をそっと指差してくれているような気がしました。例えば、木暮さんは、多くの人がいったん手放してしまったような山里に戻って、昔の人たちのやり方を発掘し、復元し、それを生き生きと未来につなげているように思います。木暮さんは、もし自分がこの田んぼをやらなくなっても、また誰かがやるだろうと語っていました。私もそんな気がします。学生の皆さんの感想も、木暮さんが象徴している人間の生き直しの喜びに反応しているのではないでしょうか。9 University of NIIGATA PREFECTURE