第一回セミナー
巨大人生ゲーム

2000年10月21日 万代市民会館

多様なライフスタイルを認め合おう


第1回は「巨大人生すごろく」を通して、恋愛、結婚や家庭、仕事といった様々な人生像をシミュレーションした。そこから自分たちの将来像を考え、描いてみることによって、男女共同参画社会の具体像を体験的に学んでいこうというものである。

こんな雰囲気で……

最初は知らない人同士でペアを組むわけだから、みんないまいち打ち解けられずに盛り上がりにかけたが、進行するにしたがってそれもなくなり、和気あいあいとしたムードの中、楽しんでもらえたようだ。中には、イベントのマスにほとんど止まらずにゴールしてしまった組や、その逆にかなりの数のイベントマスにとまり、なかなかゴールできなかった組もいた。後半には、石川先生はか3名の先生に加わっていただき、番外編としてさらに2組がすごろくを行った。取材に来ていたテレビ局のスタッフも、熱心に参加者から話を聞いていたようだった。

反省点とこれからへ!!

この「巨大人生すごろく」は前日までの準備が予想以上に大変だった。「ゲーム」の様々な設定と、参加者の反応など、あらゆるパターンを予想するのに苦悩し、たくさんの時間を費やしたため、完成した時は「できたー!」という気持ちばかりだった。しかし実際には全体としての「段取り」まで手がまわらず、当日もそれが反省点となった。 それでもゲームとはいえ、まじめに考えてしまう場面もあり盛り上がった。第1回は参加者も、実行委員も楽しくジェンダーについて考える事がてきたのではないか?反省すべき点もたくさんあったが、次回からの良い参考になった。

巨大人生すごろくの流れ

@2人1組のペアを作ろう

異性のカップルでも同性同士のカップルでも良い。また1つのカップルにアシスタントが1人づく。

A設定カードを引いてキャラクターになりきろう

設定カードを引いてもらい、そのキャラクターになりきってもらう。このすごろくは、自分の人生をシミュレーションするのではなく、「こんな生き方もアリかもしれない。」と思ってもらうことを目的としているので、設定カードのキャラクターになりきってもらうことが重要。

Bすごろくスタート!

ビニールテープで巨大なすごろく盤を作り、自分がすごろくの駒になって進んでいく。

Cぜひ、イベントのマスで止まって

すごろくにはイベントのマス(恋愛・結婚・妊娠・出産・育児・離婚etc)がところどころにあり、そこに止まったらイベントカードを引いてもらい、ペアで話し合ってもらう。アシスタントは、話し合っている2人に助言・提言をし、イベントの内容と2人が出した結果をその都度記録していく。

Dゴール!!

ゴールしたら、その結果についてみんなで検討する。

(出来島洋子・草間純一)


第1回セミナー 多様な人生(抜粋)

カップル1

《設定》

女性
漫画家アシスタント/年収182万円ボーナスなし/服飾専門学校卒/家は農家で、牛を30頭飼っている。一度漫画の賞に佳作で入っている。NHKの受信料を払わず。でもテレビはよく見る。最近母方の祖母が足腰をいためて弱っている。
男性
服屋店長/年収600万円/高卒/料理好き。めとんどくさがり。免許(バイク)有り。面食い。

《シミュレーション》

イベント1・仕事2
女性の側がリストラに遭う。これからの2人のことを考えていたのにどうしよう?
イベント2・結婚6
男性はハデ婚・女性はシミ婚願望さてどうする?
イベント3・セクハラ6
実は男性は遊び人というウワサが! どうしますか?
イベント4・日常生活11
同居している父母から「孫は男がいい」と言われ続けてきたのに、生まれたのは自分たちが希望していた女の子。両親はイヤミを言います。夫はどうしますか?
イベント5・育児8
出産前に性別を調べてもらったら女の子と言われ、ピンク色の洋服やおもちゃをたくさん用意したのに、実際に生まれたのは男の子。ピンク色のグッズはそのまま使う? それとも違う色のものを買いなおす?
イベント6・介護10
女性が介護が必要な状態。頼れる親戚も近くにはいない。自分は働き盛り。どうする?
ゴール!!

カップル2

《設定》女性同士のカップルです(ただし、設定と引いているカードとの間に矛盾が……)。

女性A
売れないミュージシャン/年収500万円/大卒(教育学部)/教員免許を持っている。パツイチ。
女性B
看護婦/年収500万円/大卒/超男性好き。昔、顔を整形した。こっそり風俗店に勤めている。

《シミュレーション》

イベント1・結婚2
Bが浮気をし、その相手の子供を妊娠したことが発覚。浮気相手の子なのか結婚相手の子なのかわかりません。あなたは結婚相手にこのことを話しますか? どうしますか?
イベント2・妊娠6
あなたは妊娠しました。しかし、そろそろ今までのキャリアが認められて昇進の予感。管理職になったら今よりもっと忙しくなりそうです。今特にに子供が欲しいわけではありません。どうしますか? (男性への質問)このパートナーの状況をどう思いますか? 手助けしますか? どうしますか?
イベント3・セクハラ6
また、このイベントカードまでにもとのさやに戻っている。Aが「遊び人」という噂がいつの問にか広まってしまった。
イベント4・結婚8
Aは離婚を強く希望しているが、Bは拒否している。
ゴール!!

カップル3

《設定》

女性
バスの運転手/年収350万円/普通高校普通科卒/料理・家事は一切やりたくない。アウトドアスポーツは苦手。温泉旅行が好き。人ごみ、猫が嫌い。及川光博のような男性が好き。買い物は三越で。
男性
芸能人(女性向けの番組を持っているキャスター)/年収20O万円/4大学卒/これからもっと売れたいのでできれば家庭より仕事優先。

《シミュレーション》

イベント1・恋愛6
男性のパートナーが同性の人と浮気。
イベント2・暴力8
男性のパートナーが嫉妬深く、出掛けることや電話の長さなどもチェックし、ときには暴力も振るったりする。
イベント3・仕事6
(内容一部変更)女性は自分の仕事に満足しているが、その仕事を辞めてパートナーの仕事を手伝ってほしいと言われた。
イベント4・出産3
出産に立ち会うか? 立ち会わないか?
イベント5・介護7
(内容一部変更)女性が自分の親から面倒を見てほしいと言われた。
*カードより設定変更
女性はパスの運転手を辞めて男性のマネージメント業に(仕事6)。籍を入れず、事実婚のまま子供を出産し(出産3)、女性の親と同居(介護7)。
*個人的な補足質問として、2人の問に生まれた子供にどちらの姓を名乗らせたいか尋ねた。
「2人だけなら事実婚でいいけど、子供ができたら籍を入れたい。姓に関しては別にどちらの姓でもいい。特に男性は芸能人なので、名前が変わっても仕事上では今までの名前を使うことができる」
ゴール!!

カップル4

《設定》男性同士のカップルです。

男性A
臨床検査技師(公立病院勤め)/年収400万円/麻雀が出来ない。外食はしない。ワイドショーが大嫌い。AT限定普通自動車免許のみ持っている。
男性B
教師/年収240万円/兄弟が多い(8人中7人目)。親がキリスト教徒で、中絶は絶対に駄目という考え方。食べることが大好き。健康志向。海外NGOに興味あり。親が国際結婚。自家菜園に凝っている。懸賞で海外旅行するのがすき。恋愛経験豊富。

《シミュレーション》

イベント1・仕事8
Bさんが今までの仕事をやめて司法書士試験を目指すが、しかしプレッシャーで精神的に不安定になり、受験に失敗する。さて、これからどうする?
イベント2・恋愛3
Bさんに好きな人が出来てしまった!! その相手に告白をしたら、なんと夫と子供がいることが発覚!! さあどうする?(Bさんは男性も、女性も愛する人)
イベント3・暴力5
最近、(愛人問題などもあり)口論が多くなってきた二人。そんな時、BさんがAさんを殴ってしまった。さあ、どうする?
イベント4・妊娠1
Bさんが愛人に妊娠させてしまった!! さあどうする?
イベント5・仕事15
Aさんが転勤を命じられた。もし動かないと、今後の昇進に関わってくる。さあどうする?
イベント6・病気1
Bさんが突然、不治の病にかかってしまう。さあどうする?

(以下省略)


学習プログラム開発
巨大人生すごろく

I. 巨大人生すごろくとは何か

(1)巨大人生すごろくの目的

この教育プログラムは、「巨大人生すごろく」という。参加者にはある特定の人物設定を負った二人ずつのカップルをつくってもらい、それぞれのカップルがサイコロを振りつつ、すごろくで人生をたどりながら、生活の中に現れるさまざまな事件を二人で相談しつつ解決していく、というゲームである。ゲームが終了してから、たどった人生について発表し、参加者全員で討論する。こうして、それぞれのカップルの体験を全員で共有しようという趣旨である。

それぞれの役割を演じる二人のカップルは、それぞれの負った条件の中での選択を迫られる。設定や条件によっては自分の実人生では出会わないだろうような事件に直面することにもなる。事件に巻き込まれて右往左往しながら解答を出すことで、どうやったら多様なライフスタイルを認め合ってお互いにとって幸福な生き方ができるかを考え、またそれぞれが身に付けてしまっているジェンダーバイアスを自覚してもらうことが、このゲームの目的である。

答えを考えるためにはカップル同士がよく話し合わなくてはならない。自分の考えていること・感じていることを言葉にして相手に伝えなくてはならない。ゲーム終了後は自分たちの選択を参加者全員に説明し、全員で共有し、討論しなくてはならない。コミュニケーションをとるには積極的に努力する必要がある。この大切さを学んでもらうことも、ゲームの目的である。

もうひとつ、このゲームが「巨大」であることの意味を述べておかなくてはならない。理論は分かっているのに、自分の負っているジェンダーバイアスにはなかなか気付かない、ということが、ジェンダー学習では間々ある。ジェンダー学習の目的が自分自身のジェンダーバイアスの自覚にあるにもかかわらず、である。これを自覚するのは、自分の半生を否定するに等しいからだ。そこで、無意識のうちに、自覚するのを避けようとする心理的規制が働く。分かった「つもり」になることで、より以上に理解を深めようとする努力を放棄してしまうのである。それが楽だからだ。

この傾向は、頭だけで考えている場合に著しい。賢い人の場合には特にはなはだしい。これに青年実行委員会の面々は気付いたようだ。ゲームは体を動かすものでなくてはならない。頭だけで優等生的な答えを用意することが難しいような状況を、意図的にゲームの中に作らなくてはならない。これがゲームを巨大化させた理由である。否応なく体をうごかさなくてはならないようにするには、ゲームを巨大化させればいい。ゲーム自体は卓上のボードゲームにもできるような内容のものではある。しかし、あえてそれを巨大化させたのであった。

(2)すごろくの作り方

まず、セミナー初日におこなった最初のゲームの試みを説明しながら、ゲームの概要を示しておこう。実際のセミナー進行については、セミナー各回の報告の項を参照していただきたい。

今回作成した大型すごろくは、大きなビニールシートを2枚、荷造り用のガムテープで接合して2倍の大きさにした「盤」に、電気工事用のカラフルな絶縁テープを使って、すごろくのコマにあたる升目を描いたものである。セミナー初日にあたる2000年10月21日に、新潟市の万代市民会館内の視聴覚室で、このすごろくははじめて用いられたのだが、その会場の広さにあわせたものである。すごろく盤自体はいかように作ってもよい。やむをえない場合には、「巨大」ではない、たんなるボードゲームにして同じことをするのも可能ではある。ただ、そうなると巨大であることの意味が薄らぐのは致し方ない。

この巨大な盤上のコマに、恋愛やSEXや結婚や仕事、育児や介護といったイベントが設定される。それぞれのイベントには、テーマに沿った何枚ものイベントカードが用意されている。たとえば、「セクハラ」のイベントでは、《相手は軽い挨拶のつもりで、女性社員の肩をたたいたり、手を握ったりします。まわりから、それはセクハラだと指摘されましたが、どのように考えますか?》とか、《相手が人事課の人に「ちょっと話を伺いたい」と、仕事のことを理由に誘われました。どうしますか?》とか、《パートナーが自分の上司からセクハラを受けたのでそれを注意したら、嫌がらせが始まりました。どのように対処しますか?》といった質問が提示される。用意したイベントカードは、【恋愛カード】10枚、【SEXカード】8枚、【仕事カード】18枚、【セクハラカード】8枚、【結婚カード】5枚、【日常生活カード】17枚、【妊娠カード】9枚、【出産カード】5枚、【育児カード】13枚、【病気カード】12枚、【事故カード】8枚、【暴力カード】7枚、【犯罪カード】7枚、【介護カード】11枚、【離婚カード】8枚、合計146枚である。

初回のゲームでは、イベントカードは極力常識を逸脱したものになるように、わざわざ配慮した。常識的な質問では衝撃を受けて立ち止まるということができないのではないか、それではジェンダーバイアスを抉り出すことはできないのではないか、という観点からである。また、多様なライフスタイルを認め合おうという目的で、組合せを男女のカップルとは限定しなかった。その結果、非現実的な状況が生まれがちであったことは否めない。これは男女のカップルを想定しないようなイベントカードを作ることが極めて難しかったためでもある。

(3)ゲームの進め方

ゲームは、司会の進行によって進められる。参加者は2人ずつペアになってゲームをする。一組のカップルにアシスタントが1人つく。アシスタントはイベントの説明をしたり、イベントカードを引かせたり、サイコロの用意をしたりするほかに、2人の人生の軌跡を記録していく役目もする。すべてのカップルのゲームが終了した時点で、司会は各アシスタントに記録を読み上げてもらい、これをもとに討論をはじめることになる。初回の時間配分は、セミナー1日目に2時間使ってゲームをおこない、2日目と3日目にそれぞれ2時間ずつ費やして討論をする、というものであった。したがって、初日のゲーム終了後の討論は、その日の感想を出し合ってもらうにとどまった。

特に、この日のゲームは体験を重視したものであった。体を動かすというところに力点をおいていたのである。事故や病気のイベントでは、実際に車椅子に乗る体験をしてもらおうと、車椅子を借りて会場に持ち込んだ。妊娠のイベントでは、妊娠体験用具を用いて、特に男性に臨月間近の妊婦を疑似体験してもらった。頭で考えるだけではだめだというゲームの趣旨を徹底するために考え出された、否応なく体を使う試みの一環である。この企画はたいへん好評だった。車椅子では、ドア框などの室内のちょっとした段差でも移動が困難になるのが良くわかる。バリアフリーの必要性が体験的に理解できた。また、妊娠体験では、妊娠が腰に多大な負担のかかるものであることを知った男性参加者に、あらためてジェンダーバイアスを自覚してもらえたようである。

巨大人生すごろくでは、参加者それぞれが現実の自分とは違う人物になりきってもらうことが重要である。問題は、この設定をどのようにおこなうかである。この日のゲームでは、参加者全員に架空の人物を設定してもらい、それを書いたカードを参加者の性別も設定された人物の性別も無視してシャッフルし、参加者に再度カードを引いてもらった。また、カップルはカードを引く前に組合せを作っておいた。したがって、女性参加者に同性愛男性カップルの1人になりきってもらう、といったことも生じた。こうして成立したカップルは次の通りである。

【カップル1】
女性:漫画家アシスタント/年収182万円ボーナスなし/服飾専門学校卒/家は農家で、牛を30頭飼っている。一度漫画の賞に佳作で入っている。NHKの受信料を払わず。でもテレビはよく見る。最近母方の祖母が足腰をいためて弱っている。
男性:服屋店長/年収600万円/高卒/料理好き。面倒くさがり。免許(バイク)有り。面食い。
【カップル2】女性同士のカップルです。
女性A:売れないミュージシャン/年収500万円/大卒(教育学部)/教員免許を持っている。バツイチ。
女性B:看護婦/年収500万円/大卒/チョー男好き。昔、顔を整形した。こっそり風俗店に勤めている。
【カップル3】
女性:バスの運転手/年収350万円/普通高校普通科卒/料理・家事は一切やりたくない。アウトドアスポーツは苦手。温泉旅行が好き。人ごみ、猫が嫌い。及川(光博?)のような男が好き。買い物は三越で。
男性:芸能人(女性向けの番組を持っているキャスター)/年収2000万円/大卒/これからもっと売り出したいので、できれば家庭より仕事優先。
【カップル4】男性同士のカップルです。
男性A:臨床検査技師(公立病院勤め)/年収400万円/麻雀が出来ない。外食はしない。ワイドショーが大嫌い。AT限定普通自動車免許のみ持っている。
男性B:教師/年収240万円/兄弟が多い(8人中7人目)。親がキリスト教徒で、中絶は絶対に駄目という考え方。食べることが大好き。健康志向。海外NGOに興味あり。親が国際結婚。自家菜園に凝っている。懸賞で海外旅行するのがすき。恋愛経験豊富。
【カップル5】
女性:事務員/年収600万円/高卒/水泳大好き。酒が飲めない。英検2級
男性:フリーター/年収約100万円/高卒/旅行大好き(海外・アジア系)。お買い物大好き(100円ショップ)。遊び大好き。漢字が苦手
【カップル6】
女性:スチュワーデス/年収1000万円/院卒/刑務所に入っていたことがある。ごはんはいつもコンビニ弁当。イギリスに留学していた経験を持つ。
男性:落語家/年収350万円/中卒(その後師匠につく)/大きなロマンを求めている。情に篤い。英検3級。水族館が好き。
【番外カップル1】
女性:タカラジェンヌ/年収500万円/宝塚音楽学校卒業/特技はバレー。男役の三番手ぐらい。
男性:呉服屋/年収500万円/大卒
【番外カップル2】
女性:家事手伝い(農家の長女)/年収は小遣い程度/高卒/農家の嫁はいや。親と同居したくない。
男性:長距離ランナー/年収400万円/体育大学生/特技は走ること。長年の合宿生活で先輩にこき使われ、家事(?)は上手。クリスチャン(日曜のレースには参加しない!!)

番外の二つのカップルは、あまりに面白そうなゲーム展開に、急遽、サポート役を務めていた教員(複数)がゲームに参加することになって、設定したものである。

(4)討論の進め方

今回は、2日目・3日目の討論で論じるべきテーマを前もって青年実行委員会が整理し、段取りをし、資料を用意して、当日の討論に臨んだ。議論を参加者の自由な討論に任せてしまった場合、すべての話題について的確な対応をするためには、たいへんな知識と議論能力とが必要だ。そこで前もって議論のテーマを選択し、充分な研究をしてから討論に臨もう、というわけである。しかし、このようなやり方では前半のゲームと後半の討論との関連が希薄にならざるを得ない。この希薄化は、当然、ゲームをやった意味を希薄にする。それぞれのカップルのゲーム結果から討論のテーマを選びはしたが、やはり無理があった。結果的には、討論が女性学の講義に近いものになってしまった。その意味では、巨大人生すごろくの意義を充分に生かしきれたとはいえないだろう。討論は、ゲームをもとにしたものでなくてはならない。また、そこからどのような問題を引き出すかも、参加者の討論に委ねるべきだったろう。はじめから問題を主題化してあらかじめ提示することで、参加者の意欲を削いだともいえるだけに、残念であった。むしろ、何があってもどんなテーマが出てきても、たとえ不充分でも勉強不足であってもよいから、本音の討論をするべきであった。これについてもセミナーの報告の項を参照していただきたい。


II. 県立新潟女子短期大学学園祭での再現

セミナー初日の経験を元に、県立新潟女子短期大学の学園祭において、巨大人生すごろくを展示した。充分な人数のスタッフを確保することができなかったので、ゲームだけの再現ではあったが、それなりの工夫がなされた。

確保できたのが、ゆるい傾斜のある階段状の教室で、しかも机はボルトで床に固定されていたため、空いているスペースはかろうじて2本の通路だけであった。ビニールシートを展開することができなかったので、この通路に絶縁テープですごろくのコマを描くことになった。セミナー初日のゲームでは、イベントの存在しない空白のコマがいくつもあって、サイコロの目に従ってそこに止まった場合は、おこなわれるイベントが何もないということにもなったのだが、この問題点は今回の再現でも見られた。

展示を見るために教室に入ってきてくれた観客に、ゲームの趣旨を説明して、試みてもらったわけだが、このような不充分な状況で果たして成果が出るかどうかは、かなり疑問であった。ただの遊びだと思っていた人も多かったし、【SEX】だの【セクハラ】だのといったイベントを、興味本位で捉えていた見学者もいた。しかし、実際にゲームをしてみると、この試み自体がきわめて深刻な内容を含んでいることに気付いて、誰もがまじめになるのであった。巨大人生すごろくにはこうした効能もあることが判明したと言えよう。

ゲームをやってみた見学者にはおおむね好評であった。しかし、高校生の子どもを連れて見学にきた親が、【SEX】や【妊娠】といったイベントに来ると、子どもをゲームから遠ざけようとする、といった例もみられた。「この子はまだ子どもなのでこうした話題には……」というわけであるが、当の子どもはけろっとしていたのが印象的であった。まさにこの親の対応にこそジェンダーバイアスが表れていたのだが、それを指摘するにはやはり充分な討論が必要であろう。


III. 2回の実践の反省

こうした経験を踏まえて、巨大人生すごろくを教育プログラムとしてまとめるために、青年実行委員会と教員とで改めて話し合いを持った。その結果、次のような反省が得られた。

こうした反省に基づいて、理想的な時間配分・参加者数・アシスタントの数を考え、教育プログラムを作成した。このプログラムは大勢のスタッフを必要とする人海戦術型となったが、まずはこの、高人件費タイプのプログラムを示す。

時間配分
講座は2時間ずつ2回、合計4時間が確保できるものとする。1日目は自己紹介+ゲームの説明(プリントでも配布)に20分、ゲームで1時間、グループ内の討論40分。2日目は各グループで発表をして、全体討論。
参加者数
参加者は、全員がカップルを作ってゲームに参加するものとすれば、多くて30人ほど。
スタッフ数
2人ずつカップルを作ると15組できるが、これにアシスタントを1人ずつ付けるとして、アシスタント数は15名。参加者数が増えるにつれて、司会とアシスタントのほかにも雑用をこなす人員が必要になる。

IV. にいがた市民大学での試み

(1)理想的な設定での実践例

以上の教育プログラムをまとめる過程で、本セミナーの企画運営委員でもありアドバイザーでもある新潟大学の鈴木真由子先生が、担当する《にいがた市民大学》の講座の中で、巨大人生すごろくを使ってジェンダー検証を試みてくださることになった(講座の正式名称は《にいがた市民大学 現代の社会問題コース(第7期) 「現代社会を読み解く― ジェンダーで見る社会学」後期ゼミナール第2回・第3回 シミュレーションによるジェンダー検証》、期日は2001年2月3日・10日)。

これに向けて、反省の結果と新たに策定した上記教育プログラムを実践に移すべく、人物設定の作成とイベントカードのリファインを試みた。実際に作成した、人物設定とイベントカードの全文を以下に示す。

《すごろくのコマの配置》

【スタート】→【日常】→【恋愛・セックス】→【日常】→【仕事・セクハラ】→【日常】→【結婚】→【日常】→【妊娠・出産】→【日常】→【日常】→【日常】→【育児】→【事件】→【病気・介護】→【離婚】→【日常】→【ゴール】

《人物設定》

【カップル1・2】
女性:ピアニスト:年収500万:ブラームスが好き
男性:県立大助教授:年収400万:専門は哲学
【カップル3・4】
女性:文化振興財団臨時職員:年収280万:学生時代遺跡発掘をしていた
男性:栄養士:年収260万:実家は料亭
【カップル5・6】
女性:准看護婦:年収270万:政治に対し関心が高い
男性:作業療法士:年収325万:保健所指定疾患
【カップル7・8】
女性:日本舞踊師範:年収320万:宝塚音楽学校卒
男性:代議士:年収800万:馬が好き
【カップル9・10】
女性:公団職員:年収240万:キリスト者(カトリック)
男性:自営業(神主):年収720万:過去に4回補導歴有り
【カップル11・12】
女性:執筆業:年収240万:イギリス留学経験有り
男性:JR職員:年収320万:国労
【カップル13・14】
女性:事務員:年収230万:司法書士を目指して勉強中
男性:コンビニ店長:年収460万:プレステ2が欲しい
【カップル15・16】
女性:会社員:年収330万:元Vシネマ女優
男性:フリーター:年収180〜250万:映画監督を目指す

(当日の参加者は16名で、8カップル作ることができた。2カップルずつ同じ設定でゲームしてもらうため、実際に使用したのは【カップル7・8】までの四つの人物設定のみであった)。

《イベントカード一覧》

【日常生活カード】

  1. せっかく一緒に遊んでいるのに、相手はつまらなそうにしている。さて、どうしよう?
  2. 自分のパートナーは最近ダサクなってきた。テレビ番組『ジャスト』に手紙を出したらOKサイン。どんな風に変えてもらおうかなあ?
  3. パートナーが「勉強したい」と言い出し、再び学校に通うことになった。どうする?
  4. パートナーがいつの間にか莫大な借金をしていた。さて、どうする?
  5. 競馬でひと山200万円GET! でもパートナーはそのことを知らない。どうする?
  6. お隣りのお家は何やらうるさい。夜中まで怪しげな音が聞こえてくる。どうしよう?
  7. 彼女が悟りを開き、新興宗教の開祖になった。どうする?
  8. 同居している父母から「孫は男がいい」と言われ続けてきた。しかし、生まれたのは自分たちが希望していた女の子。親は嫌味を言うが、どうする?
  9. 最近、パートナーが暗い。尋ねてみたら、近所にいじめられているらしい。どうする?
  10. 友人がお金がなくて困っていて保証人になって欲しいと頼まれた。長年、親しい付き合いをしていて気心の知れた仲ではあるが、どうする?
  11. 家を新築する。やはり借金はすることになるだろうが、いくらくらい借りて、どんな家にしようか?
  12. 今まで吸わなかったパートナーがタバコを吸い始めた。
  13. 今日ドナーカードをもらった。脳死後の臓器提供について2人で話し合って。
  14. 電車に乗ったら、席が一つしか空いていない。
  15. バスに乗っていたら、隣に老人が1人。他に席がないらしい。私たちは席を譲ろうと思うが、どうしよう?
  16. あーっ! 空にUFOが!
  17. 感動的な映画を見た。
  18. 2人人で食べたたこ焼き。最後に残った一つをどちらが食べる?
  19. 献血の呼びかけが……どうする?
  20. 家の蛍光灯が切れた。どっちが交換する?
  21. 今日は選挙! 投票する?
  22. ストーブの灯油が切れた。どっちが買いに行く?
  23. 流れ星発見! 何をお祈りしようか?
  24. 水族館に行った。

【恋愛・セックスカード】

  1. あなたは恋人がいる。ある日、あなたが友達だと思っていた人から告白をされた。どうする?
  2. あなたに不満を感じたパートナーが他の異性と関係をもった。どうする?
  3. パートナーの好みのタイプとあなたは正反対。最近それが少し不安。どうする?
  4. 恋人が同性の人と浮気をした。どうする?
  5. パートナーがある時、スカウトにあい、芸能界入り。最近、仕事が増え、会えなくなった。突然、所属事務所から「別れて」と電話。どうする?
  6. NOVAに通い始めて、英会話(の講師アルヴィーゼ)にはまったパートナー。突然、留学したいと言い出した。どうする?
  7. 誕生日のプレゼント、何にしよう?
  8. あなたは社内恋愛中。最近、仕事が認められて昇進できることに。そしてあなたは"パートナー"の上司に。うまくやっていける?
  9. 彼が性病に! もちろんセックスはできない! どうしよう?
  10. 「今日は安全日だからゴムをつけないでSEXしましょう」と、彼女が言った。どうする?
  11. 最近、付き合いがマンネリ化気味。どのようにして2人の付き合いを盛り上げよう?
  12. 彼が「今夜どう?」と誘ったら、彼女は「今、生理中だけどそれでもいいなら……」と答えた。さあ、どうする?
  13. 付き合ってだいぶ経つのにパートナーは体のコミュニケーションを求めてこない。さて、どうする?
  14. パートナーが性的不能者だった。どのようなコミュニケーションをとるのがいいだろう?
  15. 誘淫剤を飲んでSEXしてみようかとパートナーが言い出した。実際に使ってみる?やめる?
  16. 会う度にパートナーから強要されるSEX。あなたは拒みたい。これからあなたたちはどう性生活をおくる?

【仕事・セクハラカード】

  1. 二人とも就職が決まったらなかなか以前のようには会えなくなってしまった。でも会いたい。どうしよう?
  2. 結婚しようとおもっていたら、より稼いでいる方にリストラの波が……どうしよう?
  3. 会社で結婚退社を迫られた。どうしよう?
  4. パートナーが専業主夫(専業主婦)になりたがっている。どうしよう?
  5. あなたは今の仕事に満足している。けれども、パートナーの家は自営業。結婚したらパートナーの家業を手伝わなければならない。どうしよう?
  6. パートナーは会社員。そろそろ結婚しようかという話が出てきた頃、会社を辞めて農業をやりたいと言い出した。どうしよう?
  7. パートナーが「転勤」を命じられた。転勤しないと今後の昇進に影響するかもしれない。どうしよう?
  8. パートナーがリストラにあい、全てのものへの意欲を失い、仕事もせずに家にこもりがちに…。どうしよう?
  9. リストラされた。パートナーにはまだ言いだせないでいる。明日からどうしよう?
  10. パートナーは軽い挨拶のつもりで、同僚の肩をたたいたり、手を握ったりする。まわりから、それはセクハラだと指摘されたけれど、どう考える?
  11. パートナーが人事課の人に「ちょっと話を伺いたい」と、仕事のことを理由に誘われた。どうするか?
  12. パートナーの親にセクハラされた。どうしよう?
  13. パートナーが仕事関係でからセクハラを受けたのでそれを注意したら、嫌がらせが始まった。どうしよう?
  14. パートナーがセクハラを受けた。訴えたいと相談してきたが、セクハラしてきたのは、あなたの父の友人で、あなたもよく知っている人だった。どうしよう?
  15. パートナーが「遊び人」という噂がいつの間にか広がっていた。どうしよう?
  16. 会社の同僚(または上司)が腰のあたりをポンッとたたいて、「おまえの尻は触ってないぞ!」と言った。確かにそうなのだけれど、どんな態度をとる?
  17. 仕事先で上司に体を触られるなどのセクハラを受けた。どうしたらいいだろう?

【結婚カード】

  1. 結婚を前にあなたは浮気をした。やがて妊娠が発覚! しかし、パートナーの子なのか、浮気相手の子なのか不明。あなたはパートナーにこのことを話すか? どうするか?
  2. 2人は只今、遠距離恋愛中。仕事も私生活も充実。ある日、パートナーの父親が倒れて入院。介護する人がいなくて焦ってあなたに求婚! どうする?
  3. 結婚前は「2人で何でも分担しよう。家事も育児も協力し合おう」。結婚後は「やっぱり家事や育児は女の人がやるのが一番いいな。俺はうまくできないし……」。結婚前と後で態度を変えたパートナーについてどう思いますか? そしてどうしますか?
  4. 結婚に際して、夫婦別姓にする!と決めていた。しかし、パートナーの両親にそれを打ち明けた時「それをしたいなら、自分たちと同居するように」と提案された。あなたはどうする?
  5. 結婚式! 自分はジミ婚でよいのに……。パートナーはハデ婚がいいとのこと。さてどうする?

【妊娠・出産カード】

  1. 出産する時は、どこがいいか?
  2. やらなければならない仕事をたくさん抱えているパートナーのもとに出産が近づいたという連絡が。会社に残ろうか?病院に向かおうか?
  3. 出産時の立会いについてはどうしよう?
  4. 出産をする時、母子共に危険な状態になってしまった。片方しか助からない可能性があるといわれたが、どうしよう?
  5. 出産のための講習を2人で受けるか?
  6. パートナーがほかの異性とセックスした結果、妊娠。どうする?
  7. 検査したら障害児だと判明しました。パートナーと相談してみて。
  8. 妊娠中。もともと愛煙家なのでタバコをやめません。どうする?
  9. 不妊治療中。そんなとき里親という選択があったと考えた。どうする?
  10. 妊娠発覚! あまり望んでいない子ども。さてどうする?
  11. パートナーは実は子どもが大嫌い! だけどあなたは子どもが欲しい。そんなときに妊娠発覚! どうする?

【育児カード】

  1. 自分の子どもが友だちとままごとをして遊んでいる。女の子は「行ってらっしゃい、あなた」、男の子は「仕事頑張ってくるよ」……と言っている。あなたたちはこの会話を聞いて何をする?
  2. 子ども(6歳未満)が熱を出した。あなたたちは共働きで、2人とも大切な会議や打ち合わせが入っている。さあ、どうする?
  3. 自分の子どもに英才教育する?
  4. 子どもが非行に走った。どうしよう?
  5. 近くの公民館で育児学級が開設されている。参加してみたい?
  6. 子どもが大学受験に失敗。どうしよう?
  7. せっかく家を建てたのに、ここは大気汚染地帯。子どもはぜん息になった。どうしよう?
  8. 出産前に性別を調べてもらったら、女の子と言われ、ピンク色の洋服やおもちゃをたくさん用意したが、実際生まれたのは男の子。用意したピンク色のグッズはどうしよう?
  9. 急に学校を休み始めた子ども。その原因が分からない。どうしよう?
  10. あなたたちの子どもが学校でいじめを受けている。どうする?
  11. あなたの子どもが「赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?」と聞いてきた。どう答える?
  12. 18歳にもなっていないあなたの子どもが妊娠! 親としてどうする?
  13. 子どもを保育園に預けたいのだけれど、定員オーバーで断られた。他の保育所はとっても遠い。さて、あなたたちはどうする?
  14. 共働きをしているパートナーが隣の県への転勤を命じられた。子どもたちの転校を心配して、パートナーは単身赴任すると言い出した。あなたは育児や家事をどうやってこなす?

【事件カード】

  1. パートナーから殴る、蹴るの暴行を受けた。これが初めてではない。両親や友人に相談すると、「あなたに非があるんじゃない?」と言われた。どうする?
  2. 小さい頃、母親から虐待を受けていた。先日、自分の子どもをたたいてしまった。どうする?
  3. 子どもが家庭内暴力を起こした。どのように子どもに接する?
  4. 世間ではいろいろな暴力事件があるけれど、幸いうちには縁がなかった。でも、考えて話し合うことが必要だと思う。互いにパートナー同士で話し合ってみよう。
  5. 隣の家が家庭内暴力で荒れている。毎晩騒がしい悲鳴がする。近所的にどうする?
  6. あなたのパートナーが痴漢で捕まりました。どうしますか?
  7. 自分の部屋に盗聴器がついているのが発覚! どうする?
  8. 子どもが近所の家の放火で逮捕された。未成年のため、名前等は報道されなかったが、まわりの人は知っている。どうする?
  9. パートナーが冤罪で捕まってしまった。どうしよう?
  10. 平気で道にポイ捨てをするパートナー。
  11. 万引きを目撃しちゃった! どうしよう?
  12. 新居を建てたのに火事になってしまった。どうしよう?
  13. パートナーが事故にあい、入院。体に障害が残り、車椅子生活を送ることになった。どうしよう?
  14. パートナーが原発の事故により被爆した。どうしよう?
  15. 自動車を運転中に事故を起こしてしまった。どうしよう?
  16. パートナーの目が見えなくなってしまった。どうしよう?
  17. パートナーが単身で海外旅行中に事故に遭った。どうしよう?
  18. 2人で海外旅行中に事故に遭い、2人とも入院。どうしよう?
  19. 自転車の運転を誤り、人の家の庭に突っ込んでしまった。どうしよう?

【病気・介護カード】

  1. パートナーと自分の両親が両親4人とも痴呆症に。どうする?
  2. パートナーが寝たきりの病気で自宅療養。あなたは働いて生計を立てなくてはならないし、パートナーの面倒も見なくてはならない。子どもたちとの生活も教育も心配だ。さあ、どうする?
  3. パートナーがパーキンソン病で寝たきりに。どうする?
  4. 最近、同居の母の物忘れがひどく、とうとう自分の子どものことも忘れるように。どうする?
  5. 結婚して2年。2人きりで生活をしていたけれど、相手の親が介護を必要とする状態に。同居することも考えなくてはならない。どうする?
  6. パートナーの両親とは離れて生活しているが、近頃「一緒に暮らして面倒を見てくれ」と相手の親からもちかけられた。どうする?
  7. パートナーの両親が寝たきりに。老人ホームへ、と考えたけれど、「親不孝者!」と言われた。どうする?
  8. 介護を受けている親が自分の病気を苦に自殺未遂。どうする?
  9. パートナーが介護が必要な状態になった。子どもも頼れる親戚も近くにいない。あなたは働き盛り。どうする?
  10. パートナーが風邪にかかってしまいました。どうする?
  11. パートナーがアトピー性皮膚炎でひどい時はとても人前に出られない。どうする?
  12. パートナーが最近元気がない。病院に行くことを勧めた。診察を受けたパートナーにはうつ病の診断が。どうする?
  13. ダイエットにはまりすぎて拒食症に。どうする?
  14. 最近疲れ気味のパートナーが自宅で休養することになった。どう接する?
  15. 健康診断に引っかかった。γ-GDPがものすごく高かった。どうしよう?
  16. 胃潰瘍になった。しかもストレス性のものらしい。あーあ。どうすれ(=どうしろ)って言うんだ?
  17. パートナーもいっしょに胃潰瘍になった。同じストレスらしい。やつらのせいだ……

【離婚カード】

  1. 別れたいが、子どものことを考えると胸が痛む。どうする?
  2. 友人は「別れた方がいいよ」と言うけれど、あなたは「あの人は私がいないとダメなんだ」と思っている。どうする?
  3. パートナーに突然離婚したいと言われた。子どもを引き取りたいと言っています。理由を聞いても曖昧な答え。もちろん自分も子どもとは離れたくない。どうする?
  4. 結婚後間もないのにパートナーから離婚話。さてどうする?
  5. 結婚して長年連れ添ってきたのに急にパートナーから離婚話。どうする?
  6. 結婚してから今まで2人仲良く暮らしてきた。今のパートナーに会えて本当に良かった。「でも、もしかしたら……」。違う人生、考えてみて。
  7. 自分は離婚を強く望んでいるのに、パートナーは絶対に嫌だと言う。どうする?

(2)ゲームの進行

初日のゲームでは後半の30分で「一番盛り上がったイベント」を選んで発表してもらった。【日常生活カード】で極々日常的な質問をしたのがかえってよかったようだ。ジェンダーバイアスは日常のいろいろな局面に姿をあらわす。それが、「電球がきれた」といったことをきっかけに自覚されてくる。まったく別の人間として振舞うことで、かえって自分を客観的に見ることができる。まったく同じ人物設定の2つのカップルが、まったく違う人生を歩んだり、異なる人物設定の2つのカップルが偶然同じイベントカードを選んでも違った判断を下したり、興味深い展開となった。イベントカードはかなり整理したのであるが、それでもまだ一貫性を欠いていたようではある。さらに洗練の必要はあろう。

初日にはカップルの2人で濃密なコミュニケーションが図られた。否応なく話し合わなければ理解に達することができない。しゃべりつづけて喉が乾いたという感想が聞かれたのは、どれほど話し合ったかの証左であろう。2日目は、同じ人物設定で違う人生を歩んだ2組のカップルが4人でそれぞれの人生を比較する討論をし、その成果を大きな画用紙に絵と文章で表現してもらった。これを全員の前で発表し、感想を述べ合った。

今回の実践は、セミナーでの実施で問題とされたゲーム後の討論の工夫という点で、格段の進歩を示したと言ってよいだろう。参加者の主体的な討論にすべてを任せたことが、きわめて実り多い議論に結実したようである。一例を挙げよう。あるカップルの男性役を演じていた女性は、「あなたのパートナーが痴漢で捕まりました。どうしますか?」というカードを引いた。男性の役を演じていた実際には女性のこの参加者は、女性がはたして痴漢をするだろうか、女性にとって性欲とはどういうものか、という点にこだわって議論を展開した。また、別のグループの討論からは、ジェンダーを鬼に譬えて、はじめは鬼が外から私たちを抑圧しているように見えるが、実は私たち自身の中にも鬼が住んでいる、という発見が議論のまとめとして発表されたりもした。実人生では経験し得ないであろう設定と討論が、気づきを生んだという、貴重な体験であったとおもう。


V. 巨大人生すごろくのバリエーション

本格的に展開した過去2回の実践では、参加者の人数も20人に満たなかったし、アシスタントも青年実行委員会のメンバー多数を動員して、きわめて贅沢に展開することができた。しかし、巨大人生すごろくを中心に講座を企画することを考えると、常にこのような好条件でゲームを展開できるとは考えられない。ただ、どのような場合でも、カップルの対話と全体での討論に充分な時間を確保することは重要である。ゲームの成功はこれにかかっているといってもよい。最低でも2時間ずつ2回、できればもっと長時間の講座であることが望ましい。以下では、いろいろな条件下で巨大人生すごろくを実施するために考えられるバリエーションについて考察しておく。

(1)参加者の人数が多い場合

ゲーム自体は一組の人物設定で4人までプレイすることができるが、こうしてできたカップルが何組まで同じすごろく盤上で集まれるかと考えると、そうそう多くはできないであろう。やはり、4人ずつ8組くらいが限度だろう。それを超える参加者が集まった場合はどうするかを考えたい。

第一のプランは、これを超える参加者はそれぞれのカップルの周りでカップルの選択に賛同したり反対したりする「世間」の役割を担ってもらう、というものである。こうすると、カップルの中に閉じこもってしまいがちな2人により広い知見や立場を提供することができるだろう。

第二のプランは、「巨大」であることのメリットを棄てて、ボードゲームとしてプレイしてもらうことだ。机ひとつあれば4人が額を寄せ集めてゲームすることができる。この場合は巨大であることを棄てたデメリットを補うために、司会には一層の努力が要求されるだろう。

第三のプランは、少人数の何組かのカップルに他の全員の前でプレイしてもらい、これに他の参加者が討論しながら加わるというものである。理想的なプランでは、プレイするカップル同士での討論があり、その後で同じ人物設定のカップル間での討論があり、最後に全体の討論がおこなわれる。これを、はじめから全員の討論の前で展開してみようというものである。会場の前の方に集められたプレイするカップルは、みんなの前でサイコロを振り、イベントカードを引き、選択をする。その選択に対して、他の参加者がいろいろと意見を述べ、討論をし、選択をしたプレイヤもまた反論をする、という風にゲームを展開するのである。これだと、すごろくを最後までプレイするのにかかる時間は理想的なプランよりはるかに多くかかるであろう。その場合は、ゲームそのものを2回に分けて展開すると言うことも考えられる。討論の仕方さえ工夫できれば、面白い議論を展開できるだろう。

第四のプランは、ゲームの説明により多くの時間をかけなくてはならないが、ゲームにカップルとして参加する人以外の参加者にアシスタントになってもらうというものだ。これだと、アシスタントの人数を増やすことで、ゲーム後の討論を充実させることもできる。これが4つの案の中ではもっともうまくいくのではないかと考えられるが、いずれにしてもこの場合特有の工夫が凝らされる必要はあろう。

(2)アシスタントの人数を確保できない場合

これについては先の第三・第四のプランを準用できよう。第三のプランは、実のところ、人数が多くなくとも可能な形態である。むしろ、少人数の場合の方がうまく機能するかもしれない。また、第四のプランは、カップルの数を少なくするだけで少人数のばあいにも応用できるだろう。先にも挙げたメリットはどちらの場合にも生かせる。必要なのは、参加者の討論をどうやって引き出すかの工夫で、それは理想的な場合でもハンディのある場合でも重要度は変わらない。

(3)会場が狭い場合

これはもう、会場の立地と参加者の数とで千差万別である。狭いといっても、参加者の人数と比べてのはなしであるからだ。どうしても窮屈な場所しか確保できないなら、ボードゲーム化もやむをえないが、そこまでしないでどうにかゲームする工夫をしたいところである。すごろくのコマだけなら、机の間の通路にでも設定できる。廊下でだってできるし、通路でも、場合によっては個人住宅でも可能だ。ひとところにすべてのコマを配置しなくてもそれはそれで面白い展開ができるだろう。

(4)その他のバリエーション

以上に挙げたプランは、どれも2人のカップルの人生を追いかけるものであった。そのため、イベントは2人の個人的な関係を中心に展開したし、家族や親密な間柄でのジェンダー問題が中心のテーマとなっていた。しかし、ジェンダー問題はこうした領域に限って現れるわけではない。たとえば、【仕事】と【セクハラ】とをいっしょにしてゲームを展開してみたが、仕事の世界にはもっと複雑な問題がある。管理職であるか平社員であるかによって、同じ問題に対する対処の仕方は異なってくる。会社組織を例にして、社長・部長・課長・平社員からなるグループで架空の会社を作ってもらい、それが経営上の問題に直面してどんな選択をするか、といったゲームを作ることも可能である。場面を学校に据えて、学校のジェンダーを抉り出すようなゲームも作れる。あるいは、こうしたいくつものゲームを連続で展開していくということも面白いだろう。労力がかかることはいうまでもないけれども。

人物設定やイベントカードは、会場や対象とする参加者、特に力点を置きたいテーマによってさまざまに異なってくる。我々が発売元になって「巨大人生すごろくセット」を販売するというような展開は意味がない。その都度の目的に合わせて、設定もイベントも作り直さなくてはならないからだ。この作業を誰がやるのか、というのも重要なテーマだろう。講師役の人物が、企画・立案からカードや盤の製作まで、すべてを引き受けることは無理である。現に、今回使用した物資の製作には、30人近い青年実行委員会と我々教員が、頭をひねり、体力を注入して、数週間かかっている。その意味でも、実施する側が委員会を組織して準備をする必要がある。

さまざまな工夫をしても、この「巨大人生すごろく」は人海戦術型の教育プログラムであることには変わりはないだろう。あるいは、むしろ、目的を、ゲームをすることだけにおくのではなく、ゲームを工夫して作っていくことに力点を置く講座というのも、考えられる講座の一形式だろう。

(石川伊織)


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最終更新日:2013/07/24