言語地理学のへや(福嶋秩子)



SEAL version 5.0 for Windows95について



福嶋・福嶋1998より冒頭部分を転載

1.SEAL version 5.0 for Windows95


 SEAL(System of Exhibition and Analysis of Linguistic Data、"SEAL"は"はんこ"の意)の旧バージョン(SEAL version 4.3)は、MS-DOS版のN88-日本語BASIC(86)で開発された。このため、これまでのSEALはNECのMS-DOSマシーンあるいはその互換機でしか使えないシステムであった。

 近年、パーソナルコンピュータ(以下ではパソコンと呼ぶ)はNECの機種も含めてWindows95の普及が著しく、旧来のMS-DOSマシーンに比べて初心者でも簡単に操作できるようになりつつある。そのような環境の中で、SEALをWindows上で使いたいとの声も聞こえてきた。また、旧来のSEALに対しては我々も不満な点、たとえば、地図が白黒であり、カラー化されていない、はんこの数が少ない、SEALによって地図化するには最低限MS-DOSの知識を必要とする、このため、NECの古い機種(MS-DOSのパソコン)でしか作業ができない、等々があり、旧版のSEALが時代遅れになってきており、その能力を改善する必要があると考えていた。

今回発表するSEAL for Windows95はその名が示すようにWindows95上で動くように開発された言語地図の作製・解析システムである。本システムはWindows95上のMicrosoft Visual Basic(以下VBと呼ぶ)により開発された。VBはその名が示すとおり、グラフィックスを容易に扱える新しいBASICであり、旧来のN88BASICと同じ"BASIC"という名が付いてはいるものの全く異なったコンピュータ言語といえる。このため、VBで開発されたSEAL version 5.0は、言語地理学データの地図化と解析を行うというコンセプトはこれまでのSEALと変わらないが、全く新しいシステムであるといってよい。

 新版のSEAL version 5.0は、Windows95で動く他のソフトウエアと同様に操作性が格段に進歩した。なお、SEAL version 5.0はVBで開発されたが、これを動かすためにはVB本体は必要とせず、Windows95が使用できる機種であれば、パソコンのメーカー、機種によらず動作可能である。ただし、SEAL version 5.0のWindows3.1での動作は確認していない。



2.SEAL version 5.0のハードウエア構成


 SEAL version 5.0はひとつのプログラムSEAL.EXEからなる。SEAL.EXEにより、言語地図用の白地図作製、言語データの入力、はんこの指定、言語地図の地図化、言語データの集計とその地図化等を行う。

 SEALを利用するためには、以下の機器が必要である。

 @ Windows95が利用できるパソコン  A プリンター(カラープリンターが望ましい。)

 SEAL version 5.0はWindows95対応であり、MS-DOSには対応していない。MS-DOSのみが動くパソコンを利用したい場合には旧版のSEAL version 4.3 を利用されたい。また、カラープリンターは、カラーの言語地図を描くために必須である。カラープリンター以外のプリンターでは、当然のことながら白黒の地図しか描けない(パソコン画面がカラーだとしても)。また、この他にディジタイザーがあれば、白地図の作製を省力化できる。



3.SEAL version 5.0とSEAL version 4.3との違い


 SEAL version 5.0とSEAL version 4.3のもっとも大きな違いの第1点は、後者がNECのMS-DOSマシン用に作られていたのに対し、前者がWindows95対応だということである。したがってversion 4.3はNEC、あるいはNECの互換機のパソコンだけでしか動かすことができないとの大きな欠点を有していた。version 5.0では基本OSとしてWindows95を採用しており、NECのパソコンのみならず、いわゆるDOS-V機においてもSEALを動かすことができる。これは、SEALの利用のし易さという点でも、SEALの利用の普及という点でも大きな違いである。

 また、version 4.3 ではOSとしてMS-DOSを用い、NECの歴代のパソコンでのプログラム言語であるN88BASICによって開発された。N88BASICで大きなプログラムを組むには、かなりの困難があり、小さなプログラムを複合的に組み合わせてSEALのシステムが構成されていた。一方、version 5.0ではOSとしてWindows95を用い、Microsoft Visual Basicを採用した。開発されたSEAL.EXEでは積極的にWindowsのコマンドを用いている。version 5.0では、言語地図作製の機能をすべてSEAL.EXEの中で処理するシステムとした。このため、SEAL version 5.0では、簡単に複合処理が行えるなど、Windows95ならではの特徴を生かした言語処理を行うことができる。

 第2点は、version 5.0では、地図及び「はんこ」(地図に書き込む記号)をカラー化したことである。白地図の場合には、地形図に必要な曲線や地図の凡例などをいくつかの色別に描くことができるようになった。この地図は言語地図の作製に利用される。また、言語地図作製に不可欠なはんこにも色指定をつけるように改善した。また、はんこの指定では、はんこの大きさ、はんこの線の太さをそれぞれについて3段階で変化させることができるようになっている。また、はんこの種類は367個となり、version 4.3に比べて格段と増えた。このため、version 5.0では、記号の違い、色の違い、記号の大きさ、記号の線の太さなど、きめ細かいはんこの指定を行うことができ、表現力豊かな言語地図の作製を行うことができる。

 第3点は、地図の印刷にあたって、version 4.3まで行っていた画面のハードコピーではなく、プリンタへの直接出力にした結果、美しい地図の作製が可能になったことである。また、画面設定を変えると、地図の大きさを変えることができるので、ハードコピーによる印刷をしていたときよりも、大きく細かい地図を作ることができる。

 第4点は、言語データの表記に、これまでのSEALと同様な発音記号によるデータのほかに、アルファベット、カタカナ、漢字のいずれもが可能となったことである。また、これらの異なる文字の混在したデータも地図化に利用できるようになった。version 4.3では漢字の使用は不可とされていた。漢字の使用が可能になると、ことばの新旧の違いや対象物(レファラント)の違いなど、漢字による情報を言語データに付加することができる。また、言語データのみならずインフォーマントの情報などについても多様なデータ作成が可能である。

 言語データの作成や、言語データに対するはんこの指定等は、SEALの中でできるようにしている。言語データの作成については、外部のエディター(たとえば、Windows95のアクセサリにあるメモ帳やワードパッドなど)を使うことも可能である。

 第5点は、言語データの集計とその地図化が容易になった点である。version 4.3でも、データの集計を行うことができたが、version 5.0では集計の作業を効率的に行うことが可能になった。データ集計には、2通りの方法がある。第一の方法(これを集計1あるいは頻度集計と呼ぶ)では、言語データを特徴あるいくつかのグループに分類し、それぞれについて使用頻度を求める。第二の方法(これを集計2あるいはRANK集計と呼ぶ)では、言語データのうち、2つの対立するデータの使用頻度を集計する。

 集計1においては、いくつかの異なった言語データの特徴ごとの集計を多地点で行うが、この言語データの特徴の頻度を地図上に表現する際、どのような基準で地図上に表示するかは迷う点である。version 5.0では、この頻度の集計結果を統計分析し、頻度の平均値、標準偏差を計算することにより、合理的に地図化の判定基準を求めることができる(Fukushima 1997bにこの実例がある)。




インターネット共同研究報告 福嶋秩子

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