ブックタイトル平成26年度公開講座記録集

ページ
9/64

このページは 平成26年度公開講座記録集 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

平成26年度公開講座記録集

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

平成26年度公開講座記録集

第1回公開講座 佐渡の酒と水─日本酒のテロワール─残っていると言われています。人間には脱皮とはいえませんが、入れ替わる部分があります。この宮古島の話では爪がそうです。水を撒いた時にちょっと飛沫が人間の指先にかかったので、爪は入れ替わることができるようになったという話です。このように水にまつわる不思議な話は数多くあります。●水と宗教水は宗教行事にも多く関係しています。たとえば真言密教の儀式では、水そのものが究極の存在を変えうる根源的な力を備えているとして多く使われています。水で禊をするあるいは沐浴をするなど水には力があり、水を撒くことによって清められ新しい命をもらえると仏教では考えられているようです。これを聞いて私も思い当たったのが末期の水です。一般に「これから永い旅路に出るのだから、喉が渇かないように唇を浸してやれ」などといいます。私も子供の頃そう聞かされました。ところがそうではないようです。実は死後の再生を願う水のようです。死者に水を含ませることによって、また戻ってこれるようにと期待して水をつけてあげると仏教の世界では考えるようです。また、汲むと若返る若水というものもあります。密教に限らず仏教では、こうした水の再生力、あるいは生命力は、常世の世界から通う地下水、つまり(普通の水ではなく)地下に一旦潜って出てくる水にあるというのです。その水を汲み上げることによって、水の呪力が生きてくる。つまり地下を通ることによって水はその威力を発揮できるようになるというのです。さらに密教の世界ではこのようなこともいわれています。現代の人間は水に命があるという思想を放棄してしまった。また水の持つ包容力や浄化力に甘え、いわば水がもつ再生力を過信しすぎて扼殺(やくさつ)してしまった。それが今の生態系を破壊することに繋がっているのではないかというものです。確かに昭和30後半?40年代ぐらいにかけて公害列島と言われる時代がありました。あの時に自然の浄化力を上回る汚染物質をどんどん垂れ流して公害問題を起こしてしまったのです。宗教と地下水の力に戻ります。有名なお水取り神事に奈良の二月堂で行うものがあります。これは単に3 月12・13日の夜中に井水を汲むというだけではありません。実はその10日前、若狭の国(福井県小浜市)の神宮寺で、お水送りという神事が行われます。神宮寺から十日かかって二月堂の下にある若狭井(井戸)に水が辿り着き、その水を夜中に汲むことによって力を発揮し、観音様にあげるお香水として使うというのです。二月堂が建立された時に、修二会といって全国の神さまを集めて祝い事を行いました。その時に神宮寺の遠おにゅう敷明神という神さまが遅刻してしまいました。そこで遠敷明神は申し訳なく思い、「今後その香水を、常に出るように送る」という約束をして若狭にある遠敷川から水を送っているという言い伝えがあるようです。さらに水と神さまはどう結びつくのか。地下水学の大家の東京教育大学(現在の筑波大学)榧根教授によると、神は遍在する超越、あまねくどこにでもある超越したものであると。そして、水も遍在する特殊な物質(科学的にも、文化的にも)である。だから、神と水は、ともに遍在する「並でないもの」であると。神様がそうであるように、水はどこにでもあり、人間の心・精神に不可欠なものだ、そういう意味で神と水は共通するというわけです。さらに榧根教授の調べでは、多くの創世神話の中において、神様が水を作り給うという記述がどこにも出てこない。例えば日本書紀には、神様がかき混ぜてぱっぱっと垂らしたら日本列島ができたという話が出てきますが、水を作ったという話は出てこない。ということは最初に水ありきだったのではないか。ならば水は神様と並び立つ素晴らしいものじゃないか、というのが榧根先生の言説です。これに辿り着いた時、私は非常に嬉しかったですね。いろいろな本を調べてやっと辿り着いたひとつの結論ですから。縄文時代の人間は、湧き水の周りに定住していました。弥生時代になると川の水を引き込んで集落を形成する例がみられます。日本の国は瑞穂の国、いわゆる農耕社会です。そのため昔から水を管理する人は、社会を統率する権限を持っていた。ある意味で神の媒介者ともいえなくもない。水田に水を配る人を「水分神」、みくまりの神と呼びますが、そうした権限を持っていました。統率者は、水を支配することによって住民を支配してきたという歴史がありました。●世界の水事情例えばアフリカでは10リットルの水を手に入れるのに、毎日8 時間歩いて水汲みをする地域がありま7 University of NIIGATA PREFECTURE