ブックタイトル平成25年度公開講座記録集

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平成25年度公開講座記録集

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平成25年度公開講座記録集

第3回公開講座 フェルミエ ?Fermier?「フェルミエ」訪問記勝又陽太郎平成25年度新潟県立大学公開講座の第3 回目では、越前浜でワイナリー「フェルミエ」を経営する本多孝さんに講演して頂くことになった。この回の担当に指名された私は、初めての経験にいくらかの不安を覚えながらも、内心わくわくしていた。私が初めてワインに出会ったのは大学時代にアルバイトをしていた小さなスペイン料理店であった。時給は安かったが、いろいろな食べ物や人に触れることができた。様々なお酒の味を覚えたのもこの時だったが、オーナーに良いワインだと勧められて初めて飲んだワインだけは、「なんだか渋くて口に合わないな」と思ったことを記憶している。あれから10年以上を経て、今では私もワインを美味しく味わえる立派な酒飲みに成長した。正直に告白すれば、今回の企画に当初興味を持ったのも、テーマが自分の大好きなお酒であったというなんとも不純な動機によるものだった。ただ、そんな軽い気持ちは事前取材を行う中で変化することになる。初めてフェルミエを訪れたのは、実は本講座の担当に決まる前であった。5 月の地域連携センター会議で、本年度の公開講座の内容を検討していたとき、幾人かの先生からフェルミエの名前が挙がった。興味を持った私は、父の日の贈り物をワインにするという名目をつけて、さっそくその週末に家族とドライブがてら越前浜に向かった。5 月のよく晴れた日曜日、ブドウ畑を横目に砂利道を抜けると、新緑の中に建つ一軒の素敵なレストランが目に入ってきた。幼少期から南魚沼の山間部で育った私にとって、沿岸部の潮風が香る春の美しい景色は、なんとも新鮮で、心躍らされるものであった。ワインを飲む前に、まさにその「風景」に圧倒されてしまったのである。2 度目の訪問は、ワインの仕込みが一段落した11月であった。事前打ち合わせのため、山中センター長と最寄駅からタクシーでフェルミエに向かった。空はどんよりと重く、雪国の厳しい冬の到来を予感させる寒い日であった。案の定、越前浜には強く冷たい海風が吹き付け、春とは一変した景色が広がっていた。初めてお目にかかった本多さんからは、「職人」という印象を強く受けた。少なくとも、「元銀行員」という経歴から私が勝手に連想していたイメージとは大きく異なるように感じた。私が特に魅かれたのは、ワインについて語るときの、ふとこぼれる本多さんのほほえみであった。少年のように真っ直ぐ、そして純粋にワインづくりを楽しむ気持ちと、わが子を慈しむかのような温かいまなざしを感じさせるその笑顔は、本多さんのワイン造りにかける想いを象徴しているような気がした。打ち合わせでは、木のぬくもりが温かく感じられるレストランでランチをいただきながら、ワインを試飲させてもらった。本多さんからは、それぞれのワインが育った土地の表情を表すものであることをうかがい、これまで全く意識していなかったワインの味わい方を知った。自分の中に越前浜との比較対象が蓄積されていなかったことに若干の後悔の念を抱きつつ、目の前に広がるブドウ畑がそれぞれの季節で見せる顔を想像しながらワインを味わった。試飲させていただいた4 種類のワインは、それぞれ全く異なる個性を持っており、どれも本当に美味しいワインであった。個人的には、初めて口にしたアルバリーニョと呼ばれるブドウを使った白ワインに感動を覚えたが、個別のワインについてこれ以上背伸びをして味を語ることは控えたい。ただ、本多さんとフェルミエのワインに出会った私には、これまで何気なく通り過ぎていたワイン売り場で、無意識のうちにその土地のことを思いながらワインを選んでしまうという不思議な行動変化が生じてしまった。公開講座を通じて、聴衆の皆さんにも良き出会いがあったことを願うばかりである。21 University of NIIGATA PREFECTURE